ホテル

一昔、いや二昔前、男三人、四国旅。

当日に宿を決めるような、呑気で無計画な道後温泉行をしたことがあった。

 

そうして転がり込んだ宿、内装が新しく、きれいで申し分なかったのだけれど、窓の位置や階段、ロビーの作りがどうにも普通のホテルと違ってしっくりこない。部屋の風呂がやたら広い。これは、もともとラブホテルだったものを改装して普通のホテルにしたのだ、と気づいた。

 

ラブホテルからラブを抜くのはどんな気分なんだろうか。魂を抜くようなものではないか。道後温泉本館で湯に浸かりながら思いを馳せた。

むしろ、由緒ある街場の宿屋が高度経済成長の波の中でラブホテルに変わるところのほうが想像はできる。戦前派の隠居に対して、「お父さん、時代は変わるんですよ。それに、男と女と宿、どうせやることは一緒なんです、なんなら最初から大々的に出した方が開放的じゃないですか」とか言ってのけるラブホテルの若大将。ワシは反対だと言って聞かない隠居の志村喬。その後断行された改装を目の当たりにしてショックで寝込んでしまう。時流に乗ってラブホテルは大当たり、支店がどんどんできる。そして、いつしか若大将も年を取り、中年の頃の山崎努みたいな感じになって節税に勤しんだりする。

21エモンも脂乗ってきたら超銀河ラブホテルを開業するかもしれない。つづれやⅡ。念願だった家業をついでくれてるんだから、こちらの父親・20エモンは何も言うまい。

 

しかしラブホテルから普通のホテル・宿に鞍替えする場合はどうなんだろう。いや、何の人情劇もなく、粛々と別の運営会社に売られて改装されてるだけなんだろうけど。

折角だから、こういう所こそ、昔はなんていう名前の宿屋で、いつごろ改装して、当時はどんな様子で、みたいなことを古い温泉宿みたいに、ロビーの横に郷土資料館みたいなガラスケース置いて、そっと展示してくれればいいのにと思う。

紆余曲折の歴史がある宿屋。狙わなくてもそういうところを嗅ぎ分けて入れるようになりたいなぁと思う。